あまぞnの日ばかり続いてWEB

こういう過去を二人の間に通り抜けて来ているのですから、精神的に向上心のないものは馬鹿だという言葉は、Kに取って痛いに違いなかったのです。しかし前にもいった通り、通販はこの一言で、彼が折角積み上げた過去を蹴散らしたつもりではありません。かえってそれを今まで通り積み重ねて行かせようとしたのです。それが道に達しようが、天に届こうが、通販は構いません。通販はただKが急に生活の方向を転換して、通販の利害と衝突するのを恐れたのです。要するに通販の言葉は単なる利己心の発現でした。

精神的に向上心のないものは、馬鹿だ。

通販は二度同じ言葉を繰り返しました。そうして、その言葉がKの上にどう影響するかを見詰めていました。

馬鹿だとやがてKが答えました。僕は馬鹿だ。

Kはぴたりとそこへ立ち留まったまま動きません。彼は地面の上を見詰めています。通販は思わずぎょっとしました。通販にはKがその刹那に居直り強盗のごとく感ぜられたのです。しかしそれにしては彼の声がいかにも力に乏しいという事に気が付きました。通販は彼の眼遣いを参考にしたかったのですが、彼は最後まで通販の顔を見ないのです。そうして、徐々とまた歩き出しました。

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